でも、疑問なのは何故久米は、今になって雅の前に現れたのか。


二年前の事件後、久米は雅の前から姿を消すことで、彼女の中から自らの存在を消し去ろうとした。





それほど深い愛情がありながら―――




僕はスケッチブックをぎゅっと強く握った。


彼の言葉を思い出す。あの中央階段の踊り場で交わした台詞。



『鬼頭さんのきれいな血は、作品をさらに美しく斬新な何かをもらしてくれる』



愛情の欠片も無いほど冷たく凍った視線。その瞳の奥には黒い何かの感情が渦巻いているように見えた。




二年前に抱いたその深い愛情が―――


絵を描けなくなった憎悪に変わったのか。




そしてもしその感情が―――愛情が憎悪に変わったとするなら、きっと何かのきっかけがあったはずだ。




久米が現れて、ストーカーが現れた。


いや、ストーカーが戻ってきて、久米が戻ってきた?




どっちが先なんだ。


この二つを履き違えることは許されない。それぐらい重要な事柄なんだ。


「ねぇ。冬夜お兄ちゃんが転校する前、彼に何か変わったことはなかった?」


僕は聞いてみた。少なからず久米は真愛ちゃんに気を許していたと思える。


誰もが隠したがった事件、本人だって思い出したくないだろう事件のことを、久米はこの少女に自ら打ち明けている。


もしかしたら、彼はそれとなく真愛ちゃんに何かを伝えていたかもしれない。


「……変わったこと…」


真愛ちゃんは怪訝そうに目を上げた。