先に反応したのは、まこだった。
まじまじとスケッチブックを眺める視線を険しくさせて、
「血だ―――」と低く唸った。
「ママたちはあたしたちに冬夜兄ちゃんが二年前、何かの事件に巻き込まれたことを秘密にしてる。
でもあたしは冬夜兄ちゃんから聞いたの。
これは大切な人を守った―――証だって
彼女が傷つかなくて良かった。辛いことを何もかも忘れてくれて、良かった―――
生きててくれて良かった。
『良かった。良かった―――』
何度も何度も『良かった』を繰り返して、冬夜兄ちゃんは……」
真愛ちゃんの大きな目に涙の粒が浮かんだ。
久米は、いつも傍で彼のことを真剣に心配して見守っている真愛ちゃんが近くに居て―――
嫌なことをいっとき忘れ、癒されたのだろう。
だから誰も知る筈がない彼自身の本心を―――真愛ちゃんにだけは打ち明けたのだ。
そしてすぐ傍に居て見守っていた真愛ちゃんもきっと……
隣でまこも同じことを思っただろうけど、僕たちは彼女の気持ちを口に出して確かめることはしなかった。
久米は―――今でも―――
雅に深く、深く―――……
愛情を抱いているのだろうか―――



