「冬夜兄ちゃんの好きだった人なんですよね。先生たちはこの女の人のこと知ってるんですか」
真愛ちゃんが聞いてきて、僕はどう答えるべきか迷った。
真愛ちゃんの黒くて大きな目が、「本当のことを教えてください」と物語っていた。
僕が言いよどんでいると、
「どうして彼女のことを知りたいのかな?」
まこがやんわりと聞いた。さっきの安藤母娘のときの事務的な口調ではなく、幾分か口調が柔らかい。
それでも真愛ちゃんは警戒するように顎を引いた。
「この人と会ったことあるの?何か言われた?」
まこの質問に真愛ちゃんはゆるゆると首を振る。
「会った事はない。でも冬夜兄ちゃん、いつもこのスケッチブックを愛しそうに眺めてた。
でも聞いたら、彼女じゃないって。
やっぱり―――
冬夜兄ちゃんは、この人に会うために転校したんだ。
教えてください。冬夜兄ちゃん何をしようとしてるんですか?」
真愛ちゃんの真剣な質問に僕とまこは思わず顔を見合わせた。
僕たちだって彼が何を考えて、何を目的としているのか分からないのだ。
真愛ちゃんは、久米が雅に会うために転校したと思っているようだが、それもさだかではないし。
だけどいかにも利発そうなこの子が単なる憶測でこんな思いつめたような行動を取るようには思えなかった。
「どうしてそう思うのかな?何か理由があるの?」
今度は僕が聞いた。
真愛ちゃんは無言で俯いて、僕から視線を逸らした。
口を噤んで、じっと遠くの方を見据えている。
「…最後のページ…見てください」
言われた通り僕は最後のページをめくった。
最後のページには、雅の太陽のような笑顔のスケッチと―――
色あせた赤い染みが、点々と落ちていた。



