気のせいかも、思い過ごしかも。そんな風に思ったけれど、だけど少女が数十秒後に慌てて玄関から飛び出てきたのを見て、
待ってて良かった、と思う。
少女は少し大きめの―――スケッチブックのようなものを持っていた。僕たちを見ると、
「こっち!ママたちには知られたくないの」
と言って慌てて僕たちを家の死角になる場所まで引っ張った。
「君は……」
「冬夜兄ちゃんの従兄妹でマイって言います」
マイちゃんは、はきはきと答えた。
第一印象はおっとりとした小鳥のような可愛い感じだが、こうやって話すと随分大人っぽい印象を受けた。
「あ、真実の“真”に愛でマイ」
「真愛ちゃん。可愛い名前だね」真愛ちゃんを安心させるよう笑顔を向けると、彼女は恥ずかしそうにまばたきをした。
「デススマイルだな。いかにも害がなさそー」
まこが小声でちょっと意地悪く囁いてきて、僕は慌てて口元を引き締めた。
雅にキラースマイルって言われたばかりだ。
「冬夜兄ちゃんの先生ってどっち?」
僕たちを交互に見て、真愛ちゃんが聞いてきた。
「僕だよ。こっちは僕の同僚で親友の保健医」
「お医者さん……?」
「まぁね」まこは気軽に肩を竦めて、「冬夜兄ちゃんの手も診たことあるよ」と言って真愛ちゃんに笑いかけた。
真愛ちゃんは緊張で強張らせていた表情をゆっくり緩めると、
「冬夜兄ちゃん元気ですか?」と聞いてきた。
「元気だよ。優等生だし学校の王子様みたいな存在だ」
僕が言うと、真愛ちゃんはほっとしたように今度ははっきりと笑顔を浮かべた。
「冬夜兄ちゃんモテるから」
真愛ちゃんは、はにかんだようにちょっと笑う。笑顔が明るくて可愛い。
雅の笑顔は薔薇のように妖艶で美しく、ときに太陽のようだ。
森本のお姉さんの結ちゃんはしっとりと可愛いスイートピー。
真愛ちゃんは、かすみそうのようにふわふわと可憐だった。
その真愛ちゃんが、僕にスケッチブックのようなものをずいと差しだしてきた。



