片側一斜線の道路を挟んだ向こう側のカフェの前で乃亜と右門―――と思われる人物が驚いたように目をみはっている。


「梶くん!それに雅も!!どういうこと!」


「話は後!ストーカー野郎を追いかける!」


あたしが怒鳴るように返すと、


「待っ…!」


乃亜が慌てたように追いかけてこようとした。


「そこで待ってて!」


走りながら振り向き、店を指差すと乃亜がびくりと震えて口元に手を当てた。


梶は脚が早い。


クラスの中でも飛び抜けて早い。


何度か陸上部にスカウトされていたが、梶は部活に興味がないらしくそれを断っていた。


だから負けるわけはないと思っていたが、相手の方が一枚上手だった。


狭い路地に入り込み、右へ左へとすいすい逃げていく。


この土地の地理を知り尽くしているようだった。


「くっそ!ちょこまかと!」


苛立ちながらも、何とかヤツの後ろ姿を目で追う。


土地勘がないという点であたしたちにとって不利だった。


大体の東西南北は分かるけれど、どこがどの道に繋がっているのか、どう入り組んでいるのか全く予想できない。


「次、左だ!」


後ろから大声が聞こえて、振り返ると右門 篤史が走ってきた。


「ここはあいつにとって地元も同然だ。早く!」


急かすように促され、あたしたちはこいつの言葉を信じる信じないと言う選択さえできないまま、言われるまま走り出した。