ちらりと店内を見渡すと、男一人で居る客は中年の営業マン風のサラリーマンだけだった。
きっちりスーツを着込んで、テーブルの上でパソコンを開き、ケータイで電話をしている。
あたしがじっと見ていても、まるであたしに気付かずにしきりとケータイの電話に相槌を打っている。
あれは違うな。
そう思って顔を戻す。
その他の男性客と言えば、女の連れでどれもカップルに思えた。
「なぁ、お前の考えたことってうまく行くのかよ。……ってか…」
明良兄がちょっと眉を吊り上げて、苛々したようにタバコの灰を指で弾き落とした。
明良兄が何を続けたかったのかは分かる。
分かるけどそれに関しては何も触れないで、
「うまく行くのかどうかを心配するんじゃなくて、うまく行かせるんだよ」
あたしはそっけなく言って入り口の方を目配せした。
今のところ向かいのカフェで、目立った動きはない。
「お待たせ。ミルクティー」
梶が自分の分のカフェオレも一緒にトレーに乗せて飲み物を運んできた。
「予定より少し時間がある。ねぇその前に少しいい?」
あたしは二人を目配せして、さっき久米の下駄箱から持ち去ってきた手紙をテーブルに滑らせた。
「これが何…」
明良兄が怪訝そうにその手紙を手に取る。
「さっき久米の下駄箱に入ってた手紙だろ?どうしてこんなもの」
梶も不思議そうに首を傾けた。
「熱烈なラブレターだよ。ちょっといい?」
明良兄から手紙を取り上げると、あたしはソーイングセットのちっちゃなハサミを取り出した。



