結局あたしは久米の下駄箱に入っていた手紙を持ち帰ることにした。


これは“窃盗”の罪にあたるのだろうか…


そんなことを思いながら、あたしたちは目的の―――駅前のカフェに入った。


大通りに面したオープンテラスがある小洒落たカフェ。


道路を挟んだ向かい側に、タイプの違うカフェが建っている。


こんな近隣で同業者の店を建てるなんてどうかと思ったが、駅前と言う好立地条件のお陰か両店内は客で賑わっていた。


今の時間帯は大学生を中心とした女の客が多い。中に数組のカップルも居て、明良兄は少し奥まったテーブルに腰掛け、


忙しなくタバコを吹かしながら、真剣な顔でケータイでメールを打っている最中だった。


「お待たせ。どう?」


あたしたちが近づい行くと、明良兄は仏頂面のままあたしをちらりと見上げた。


「言われた通り、今“あいつ”にメールを送ったとこ」


このカフェは―――


パリをイメージしてるのか、いかにも小洒落た外観のカフェ。お店のウリはしっとり甘いアップルパイ。


あたしが雑誌のページに赤丸を打った店。そのページをゴミ袋に入れ、


ストーカー野郎は、その情報を持ち帰った。




―――この場所からは向かいのカフェが見える。


その向かい側を意識しながら、明良兄があたしにケータイの画面を見せてきた。


「これでどうだ?」


送信済みの画面には


“ちょっとトラブル。と言ってもこっちの私情だから気にするな。もう少し近くで待ってろ。でも店には決して近づくな”


だった。



その後“相手”の返信も見せてくれた。


“分かった”たった一文だったけれど、



これで餌に食いついてきた―――



そう確信が持てた。



「上出来だよ」



あたしはケータイを返して、向かいのカフェを睨むように見据えた。