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久米の叔母夫婦の家は一軒屋だった。さほど古くはないが、まったく新しい家でもない。
表札には『安藤』となっている。―――母親の旧姓だ。
周りを見渡すと、同じような家々が連なっていた。
どこにでもあるような普通の家庭が、家の奥の平凡だけど温かい光景が、安易に想像できた。
ブロック塀の隙間から見えた小さな庭にはいくつか花のプランターが置いてある。
庭に植わった、花をつけた金木犀が上品にふわりと香ってきた。
素朴な感じはしたが、“いかにも”と言う庭園よりもその光景は身近に感じれてきれいだった。
その木の元で老婦人が屈みこみ、掃き掃除をしていた。
ちょうどインターホンを押そうとしていた僕たちに気付くと、
「あら」と老婦人が顔を上げた。
短めの白い髪は上品にウェーブがかかっていて、メガネを掛けている。その奥で丸い目の目尻が穏やかに下った。
「もしかして冬夜の?」
「あ、はい!冬夜くんの担任の神代 水月です」
慌てて挨拶をすると、
「私は同僚の林です」と、まこはさすがに慣れているのかにっこりと老婦人に笑いかけた。
「冬夜の祖母です。遠い所わざわざお越しくださって」
老婦人は人懐っこい笑顔を浮かべて、ゆっくりと庭を横切り、
「どうぞ、お入りください」とすぐに玄関の扉を開けてくれた。
僕たちは顔を合わせると、婦人に分からないようこっそりと頷きあった。



