HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



「立ち直ってないって?母親の事故死のことか?そんな素振り見えなかったけどな」


まこが不思議そうに聞いてくる。


「誰だって忘れたいことや落ち込むことぐらいあるよ。人前では明るく振舞ってるかもしれないけど、一人になると悩むタイプかもしれない」


「あいつが一人で悩む?」


まこがう゛~んと唸って腕を組み、「ごめん。想像できねぇや」と早々に考えるのを諦めたらしい。


僕だって想像ができない。久米が何かに悩んでいるようには思えないし。


「辛気臭いのはあれだ、音楽でも流そうぜ」


諦めたついでに、さりげなく話題を変えるまこ。勝手にiPodをいじってるし。



♪♪!!


突然鳴り響いた爆音に、僕は慌ててまこからiPodを奪った。


程よくボリュームを下げた音楽が車内を満たし、だけどボン・ジョヴィの声だけがやたらと耳に残っていた。


「相変わらず顔に似合わねぇ趣味だな。ボン・ジョヴィかよ。ロックだぜ♪」


「顔に似合わないだけ余分」


ムッと顔をしかめたものの、助手席のまこは、またも勝手に窓を開けてタバコをふかしているし。


あなたは相変わらず俺様ですね!


「♪This ain't a song for the broken-hearted」


ジョンの歌声に乗せてまこが口ずさむ。


「“この歌は、絶望した人々のためじやない”、か。すっげぇ前向き」


♪No silent prayer for the faith-departed♪
(信念のない人々に、静かな祈りなど捧げられない)


“It's My Life”は、大好きな曲で次に繋がるフレーズも覚えている。


何だか久々声に出して歌いたくなった。


僕も窓を開けると、片手でハンドルを任せて、まこと同じようにタバコを吹かせる。




「♪It's my life…」


(これが俺の人生さ)




僕が口ずさむと、まこが助手席でにっと笑った。