廊下の方で部活に、あるいは文化祭の準備にいそしむ生徒たちの賑やかな声と足音が響く。
その音を聞きながら、僕たちは大きな実験机の影に二人座って隠れるように身を潜めていた。
狭い空間でより一層彼女の香りを間近に感じる。
「びっくりした」
彼女が目をまばたいて、僕を見上げる。
「本当?そんな風には見えないけど」
だって、こんなときでさえ彼女は無表情だったから。
「びっくりした」
彼女はもう一度同じ言葉を繰り返し、僕の肩に両腕を伸ばしてきた。
ぎゅっと抱きしめられて、彼女の柔らかい感触や、どこか甘いものを含んだ香りでいっぱいになる。
「びっくりした。ケド嬉しい」
その言葉は彼女の纏う香りのように甘さを含んでいて、僕は思わず頬を緩めた。
きゅっと彼女を抱きしめ返す。
雅が僕の頬に頭を寄り掛からせると、小鳥のように小さく笑った。
「水月の心臓、ドキドキいってる」
「そりゃあね。だって考えたら僕たち凄く危ないことしてない?見つかったらアウトだな」
それに今日の午前中、久米や和田先生―――さらには森本にまで関係がバレてしまったから、もっと慎重になるべきだが。
吐息をついて、雅の髪をちょっと撫でると、彼女がくすぐったそうに小さく笑い声を漏らした。
その声が狭い空間に広がって、色っぽく響く。
僕は雅を引き剥がすと、真正面から彼女の顔を覗き込んだ。
制服の上から彼女の背中を撫で上げる。短いスカートから覗いているのは白い足。
近くに雅の学生鞄も転がっている。
この制服が―――僕たちを決定的に隔てる大きな壁そのものだ。



