楠は―――
僕に何か言いたげだった。何かを考えているようであり、僕に何かを伝えようとしていた。
でも結局は止めた。
楠は一体僕に何を伝えたかったのだろうか。
楠が出て行った数秒後、久米も帰っていった。
「久米くん今日居残りは~?」
クラスの女子が親しげに聞いていたが、
「ごめん、今日だけはちょっと…用事があるんだ」
と苦笑をしながらも爽やかに手を振って、何やら急ぎ足で帰っていく。
久米も―――、一人……
その状態が益々不思議…と言うか不審だった。
いつも固まって、(久米は勝手にまとわりついて)帰っているのに、今日に限ってはみんな示し合わせたように別々。
ただ、雅と梶田は一緒に帰るようで、
「梶、行こう」と鞄を肩に掛けて雅が出口の方を促していた。
「あ、ああ…」
梶田はどこか不安顔で同じように鞄の持ち手を掴むと、戸惑いを隠せないような複雑な表情で机から離れる。
僕は彼女たちが教室を出るよりも一足早く教室を出た。
昇降口に向う最中、放課後はあまり使われることのない化学室がある。
鍵は掛われていない。
薬品類は全部準備室だし、さらにはアルコールなどの可燃性のものもきちんと戸棚に仕舞われ、こちらはきっちりと施錠されているから、
侵入者が居たところで、何もできないと踏んでいるのだろう。
小さな小窓から僅かばかり顔を覗かせて、ちらりと外の様子を窺った。
「……鬼頭、ホントにやるのかよ…」
梶田の声が聞こえてきて、廊下に足音が響いた。



