HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~




―――その日最後の授業を終えて、帰りのホームルームに向かうと


いつも通り楽しそうな生徒たちの声で賑わっていた。


簡単な連絡事項を説明し終えて、僕は生徒たちの顔を眺めた。


その中に久米の姿があって、僕は彼をまっすぐに教壇から見下ろした。


にやり、と言った感じで彼が笑ったように思えた。


僕は無表情に返して、その隣で窓の外を眺めている雅に視線を移した。


彼女はぼんやりとけだるそうに外を眺めている。


彼女の前の席の梶田はそわそわと落ち着かない様子で、雅の様子を気にしているようだった。


雅の後ろの席の楠は梶田とは反対に俯いて、何事か考えるように押し黙っている。


久米に食って掛かっている変な場面に居合わせた―――森本は、何事もなかったように大人しく帰り支度をしていた。


ホームルームを終えると、各自が好き好きに行動を起こしだす。


楠は早々に支度を終えて鞄を肩に掛けると、僕の横を通り過ぎようとした。


雅と梶田はまだ教室で喋りながら帰りの準備をしている最中だ。


「楠、今日は一人で帰るの?」


気になって聞いてみた。いつもは雅と梶田と三人一緒なのに、今日は楠一人だけ……


楠は一瞬だけびくりと肩を揺らして、何かを考えるように俯き、だけどすぐに顔を上げた。


「………先生」


何か言いたげに瞳を揺らしていたが、ちらりと雅の方を振り返って唇を結び、でも結局彼女は何も語ることなく、ぺこりと一礼して


「すみません。失礼します」


と妙に仰々しくくるりと踵を返す。


どうしたって言うんだろう…