久米の字は見たことがある。


男にしてはきれいな方だと思った。文体のバランスも良くそれだけを見ると、どっちかと言うときっちりしている方だと思うが。


でもそれだけじゃ分からない。


でも、久米がこんな手紙を送りつけてくるだろうか。


それこそ彼は、僕に直接挑発するということをしてきた。


狡猾に―――


タイミングと言い、その場に居合わせたときの度胸と言い―――


彼はなかなか賢くて、しかもそれを実行するだけの能力に長けている。


でもこの手紙は―――


稚拙な文章で、しかもやり方も子供じみている。


何ていうか―――久米らしくない。


「でも久米はここの住所を知ってるだろうし、お前の名前だって知ってる」


「確かにそうかもしれないけど、でも調べれば学校名と教師の名前ぐらい誰だって簡単に分かることだよ」


僕も再び手紙を手にとってまじまじと見据えた。


確かに、まこが言う通り切り抜きの右上部分が僅かにはがれている。


それも一文字じゃない。あちこちで見られたから、まこの言う通り几帳面とは言いがたいようだ。


僕は久米の姿を思い浮かべた。


久米が雑誌を切り取って、紙に糊付けしている様子をちょっと想像する。


だめだ。


まったくと言っていいほど、その想像図はあやふやで曖昧、不透明なものだった。


普段の久米をまたちょっと思い浮かべる。


彼の授業態度はいつも真面目で、授業を聞きながらノートにペンを走らせる。


たまに彼を当てて問題を解かせるが、すらすらと黒板に書かれる文字もまったく淀みがない。





その左手はいつも迷いがなく、男にしては細くてきれいな指がすらすら動く―――




左手……―――