ストーカー野郎に負けない。
あたしは誰にも屈しない。
「先生……」
そっと呼ぶと、
「あ?」とぞんざいに返事がかえってきた。
「ありがと。大好きだよ」
…………
「………」
言ったあとになって思った。
「「キモ!」」
あたしと保健医の声が重なり、
「ちょっと、キモいってどういう意味よ」
「お前だって自分で言ってキモいとか言うなよ!」
「「………」」
またも沈黙。
ダメだ。あたしたちって似過ぎてる。
まるで自分と話してるみたい。
だけど、幻覚の中の自分よりもそれはしっかりと現実味があって、そこに確かに存在することを感じられる。
「早く会いたいな。ちぃちゃんと」
「あと半年もしたら会える。ってか勝手にあだ名つけんじゃねぇ」
「何で?可愛いじゃん“ちぃちゃん”雅お姉さんだよ、って可愛がってあげる」
「苛めるの間違いだろ。でも―――そうだな、
姉貴ができたら千尋も嬉しいかもな。
半年後が―――楽しみだ」
保健医はちょっと笑った。
あたしも声に出さずに笑って、その場を離れた。
「鬼頭?」
保健医が振り返る気配があった。EGOISTの香りが風に乗って鼻腔をくすぐる。
だけどあたしの香りは保健医に届くことがない。
ここは風下だから。
―――半年後
必ずちぃちゃんと会うよ。
約束
約束。
あたしは愛するあなたを一人残して、死んだりしない。
水月。
あたしの香りが風に乗って、あの人の下に届くことを
祈っている。