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「先生~頭痛いのぉ。ベッドで寝かせて?♪」


保健室の縦に長い大きな窓がちょっとだけ開いていて、白いカーテンが風ではためいていた。


中から女生徒の甘えるような声が聞こえる。


人けのない裏庭から、保健室の窓のサンに手をついてちょっと中の様子を覗くと、保健医のすらりと高い背が見えた。


まるで絵を描く前のまっさらなキャンバスのような、染み一つない真っ白な白衣。


腹の中は真っ黒だってのに、妙に輝いて見える。


「あ?頭痛?そう何度も仮病が通じると思うなよ。帰れ」


保健医が面倒くさそうにしっしっと払っている。


先生…仕事しろよ。


「ホントに痛いんだよ?」


まだ女生徒は粘っている。


「そんなに頭痛が続くのなら脳が何かの病気かもしれん。大病院行ってCT掛けてもらえ」


ぞんざいに言って、それでも


「ったく、どれ。ちょっと診せてみろ」と言い、女生徒を丸椅子に座らせる。


やっぱり痛みを訴えてる生徒を放っておけないみたいで、そういうところは真面目だ。


保健室をこそっと覗いているあたしに、あいつは背を向けているわけだからあたしはあいつがどんな表情をしているのか分からないけど、


結構真剣だと思う。


「……先生、好きです……」


女生徒の額を探る保健医に、女生徒が熱っぽい目を潤ませて保健医を見上げる。


何だか怪しい雲行き…


話したいことがあってきたけど、これじゃ出ていけない。


どうしようか―――と考えていると、




「やっぱ仮病だったじゃねぇか。帰れ。ガキは興味ねんだよ」




保健医のそっけない低い声が聞こえ、まだ何か文句を垂れている女生徒を保健医がやや横暴とも呼べる仕草で追い出した。


くるりと踵を返すと、カーテンの陰に隠れているあたしに、



「覗き見とは趣味が悪いな」



と、低く問いかけてきた。