それは前も見たことがある緑色のゼッケンだった。
「ってかまた忘れ物?あんた抜けてんね」
王子さまのくせに。
まぁそのお陰で助かったわけだけど。
「忘れっぽいのは昔からなんだよね。治らないんだよな~」と久米はのんびり言う。
―――『あ!美術室にスケブ(スケッチブック)忘れてきた!ごめん、鬼頭さん。待ってて!』
ふいに美術バカ…もとい“とーや”の声が脳内に蘇る。
「意外だね。久米くんしっかりしてそうなのに」
目の前の“あたし”が苦笑を浮かべている。
“あたし”はここに居る。
なのにもう一人の“あたし”が、またも
「あの画像消されなくて良かった。また何か言ってきたときの為に保存して置いたほうがいいよね」
と心配そうに少しだけ眉を寄せている。
目の前に居るのは誰―――
“あたし”は
誰―――……
二人の声が遠い。
視界が歪む。
「……さん!鬼頭さん!」
ふいに久米の声がすぐ近くで聞こえて、あたしは目を開いた。
久米―――
あなたは誰ですか?



