HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~




あたしの言葉を聞いて、体育教師は益々顔を青くして、逃げ出すように走り去った。


そのみっともない背中に向かって、



バカなヤツ。と心の中で悪態をつく。



一方あたしを助けてくれた二人は、


「「はぁ~……」」


二人して揃って大きなため息を吐いた。


森本さんなんて心臓の辺りを抑えて、床にしゃがみこんでいる。


え……もしかして……


「もしかしてデータの転送は―――嘘?」


あたしが聞くと、


「あたしは久米くんのアドレスなんて知らない」と森本さんが弱々しく呟く。


どうやら森本さんの咄嗟の嘘に、久米が機転を利かせて乗ったみたいだ。


「さすがに時間もなかったし、用事があってたまたま通りかかったわけだけど、俺と森本さんが会ったのは偶然。


中に鬼頭さんが居ることは分かってたから、しばらく様子を見てたけど、


何か怪しい雰囲気だったし、森本さんが証拠になるものを残した方がいいって言って動画を撮ったってわけだよ。


出ていくのが遅くなってごめんね?」


「あの先生の噂は結構有名だよ。それに先生は授業中も鬼頭さんと楠さんをいやらしい目で見てたから」


森本さんが僅かに顔を伏せて、それでも憎しみのこもった感情を押し隠そうともせずに忌々しそうに呟く。


そうだったんだ。全然気付かなかった。


「でもこれで他の生徒にも手を出すことはないんじゃないかな」


久米がちょっとだけ安心したように体育教師が出て行った出入り口の方に視線を向ける。


「更衣室から帰る途中に岩田さんとすれ違ったの。岩田さんは確か鬼頭さんの手伝いをしてるはずだったのに、岩田さんは一人で。


いやな予感がして戻ってきた」


あたしが岩田さんと片付けをしていることに森本さんが気付いていたことに正直驚いたが、


そのお陰で助かった。


でも


「久米は何で通りかかったの?」


「俺は体育館にこれを忘れていったのに気付いたから」


そう言って久米がポケットからゼッケンを取り出した。