■Chairs.5



◇◇◇◇◇◇◇◇


「梶くん、うまくやってるかな……」


しんと鎮まり返った更衣室で、乃亜が体操着に着替えながらぽつりと漏らした。


もう授業は始まっている。他の生徒たちは着替えを終えて球技場に向っていった。


「大丈夫だよ。鍵を掛けちゃえばわかんないし」


三限目は―――体育だ。


あたしたちは梶一人を数学準備室に向かわせて、体育の授業に出ることにした。


「また三人一緒に居るところを石原に目撃されるわけにはいかないし」


今度こそ言い逃れできないだろうし、水月のUSBすり替えもそう何度も通じない。





あの一瞬―――




本当に息が止まるかと思った。


あたしは備え付けのロッカーにブレザーを放り込んで、ブラウスのボタンを外そうとした。


水月が来なければ、完全アウトだったな。


そう考えたら、僅かに手が震えてボタンを外すのに戸惑った。


水月は何もかも知ったうえで、彼なりに最大限協力をしてくれている。


そのお陰で、





今は梶がUSBを持っている。



今この瞬間、次の展開が大きく変わるのは梶のすべてに掛かっている。



だから梶に無事USBが渡って、



良かった。





水月、




ありがとね。