雅は石原先生のネクタイを掴むと、ぐいと引っ張り、彼はその行動にたじろいだように目をまばたきさせた。




「今更謝罪の言葉なんて欲しくないけど、これだけは言わせてもらう。


てか伝言。





“舐めんじゃないよ、A組実行委員。


勝つのはD組。あんたらに負けるつもりはない”」




ヨロシク




最後に小首をかしげ微笑を浮かべると一言囁いて、雅は石原先生のネクタイから手を放した。


石原先生が動揺したように身を後退させ、よろけるように指導室の柱に背をつく。


これを何て言うのだろう。


雅は決して声を荒げたわけではないのに、圧倒されるまでの迫力を湛えたその声音に、誰もが何も言えなかった。


和田先生ならこれを“気迫”と例えるだろうか。


でもそれ以上の何か威圧的なものを感じて、僕たちは一言も声を発せなかった。


石原先生はそれでも何か言いたげに口を開いたが、結局は何も言わずに乱暴にネクタイを直すと、身を翻し行ってしまった。







「先生、ありがとう」





石原先生が行ってしまって、僕たちが顔を見合わせていると雅が僕に向き直った。


さっきの刺すような冷たい視線から一転、


その瞳は穏やかに揺らいでいた。