「ね、鬼頭さんと―――くん、やっぱ付き合ってるのかな?」
「えー!やだ!!何で鬼頭さん!?」
聞こえてるんだよ。ってか煩い。
「鬼頭さんて高校生の彼氏がいるんじゃないの?見たって言ってた子いた」
高校生の彼氏?いるわけないじゃん。
「私も見た!何か怖そうな人だった!!」
怖そうな人……ああ、明良兄のことか。
お兄は彼氏じゃない。
だけどあたしの心の否定とは反対に、一度火がついた噂話はどんどん火種が大きくなって、
―――やがて炎上する。
最初ひそひそ話していた女子たちは、あからさまにあたしをちらちらと見てきて、それに気付いた他の女子たちが、
「え?何々?」
数人のお喋りに、誰かが加わり、どんどん大きな輪になる。
炎上する―――炎の輪だ。
「鬼頭さん援交やってて、妊娠して子供堕ろしたって噂も聞いたことある」
「えー!!?―――くん、騙されてるんじゃん!」
「遊ばれてるんだよ。ちょっと可愛いからってさ、いい気になって」
一人だと炎を燈すこともできないくせに。
バン!
我慢が出来ずにあたしは乱暴に机を叩いた。
場がしん、となり周りの女子たちが一斉にあたしに注目した。
「噂話しなら本人の居ないところでやってくれる?
直接あたしに言う勇気がないくせに、本人が居るところであからさまにこそこそしないでよ」
一言言ってやると、女子たちは全員口を噤み、慌ててあたしから目を逸らした。
あたしは燃え滾る炎に水をぶっかけて、噂話を消火してやった。
燃えカスも残らないぐらい、その場が静かになり、
それでも彼女たちの噂話が、心の中にもやもやくすぶっていた。
「誰も美術バカを弄んでないし、騙してるわけでもないっつうの」
苛々と制服を着てもう一度言うと、今度こそ女子たちがあたしから体ごと逸らした。



