一時限目、僕は一年のクラスの授業だった。
それが終わると、次の授業に向かおうと廊下を歩く。
何の変哲もないいつもの行動だったし、廊下を歩く生徒たちの様子もいつもと変わらない光景。
ただ、僕の中は色々と複雑だった。
なるべく雅から目を離したくなかったが、久米がすぐ近くに居る手前、あからさまな護衛みたいな行動は避けるべきだった。
何せ僕にとって久米の目的がいまいち掴めていないからだ。
それどころかクラスには森本も居る。
久米の登場でまこは言葉を飲み込んだが、
『森本の生徒手帳には―――』
あの後何を続けようとしたんだ……
ぼんやりとそんなことを考えていると、いつのまにか中央階段に来ていた。
確か中央階段を昇りきったところは第三音楽室やら美術室やら使用していない教室が連なっている。
僕は上に連なる階段を見上げ、薄暗くどんよりと篭った空気の階上の先を見つめた。
去年、雅はこの踊り場で怪我を負った。
彼女を妬み、恨んでいた上級生の女生徒たちの集団に連れていかれての、悲劇だった。
事故とは言え、踊り場にかかったガラス製の額縁に雅は打ち付けられたわけだ。
肩を5針、腕を5針、腰を3針も縫う大怪我だった。
あの時は血の気が失せるほどの、恐怖を感じた。
僕にとってあのとき、雅は特別な生徒でなかったが、大切な生徒であることには変わりなく、
その大切な生徒が、
僕の目の前で血を流して、ゆっくりと意識を失う。
その様を思い出すだけで、僕は眩暈を起こしそうだった。



