HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~






「先生、これ。今度の文化祭についての予算についてのまとめです」





森本がいつの間にかすぐ近くに立っていて、僕にコピー用紙を手渡してきた。


「あ、ああ…ありがとう」


曖昧に頷いてそのコピー用紙を受け取ると、森本は岩田たちに一瞥してさっと身を翻す。


敵意をも感じるような冷たい視線に、


「何あれ」と岩田たちが眉をしかめている。


「ちょっと頭いいからっていい気になってるんじゃないの~?」と岩田の後ろの女子も嫌味ったらしく森本の方を睨んでいて、


話題はアップルパイから逸れた。





良かったと言えば、良かったが―――


森本は―――このクラスでやはり浮いている。


誰とも親しくなることを望んでいなさそうだ。


A組の独特な雰囲気を持つ生徒とはまた違った何かを―――森本は持っている。


それは結ちゃんの彼氏を奪ったということに関係しているようで、それと同時に雅に少し異常なまでの敵視を向けていることにも関係していそうだったけど、


実際のところは、分からない。


大人しく自分の席に帰っていく森本の背を見送り、再び岩田たちを見下ろすと、


「やっぱアップルパイには生クリームを添えるべきじゃない?」


岩田はそう言って話題が戻っていた。


話題は戻っていても、僕の何気ない発言を気にしているようではなく、


「先生も甘党なんだね?♪見たまんま♪」


なんて岩田は笑っていた。


僕は曖昧に笑い返して、それでもなるべく雅の方を見ないように、前を向き直った。




何気ない一言で、僕たちに繋がりがあることを気付かれてしまう。



久米や森本にはもちろんだが―――その他大勢の生徒にも



僕たちの関係は



知られちゃならない。