「あの…兄は真面目に働いてますか?」


なんておずおずと聞くと(てか演技だけど)事務員の女の人がにっこり笑顔を浮かべた。


「ええ、心配しなくても大丈夫よ。毎日決まった時間に来て、残業も嫌な顔せず引き受けてくれるわ。きっと根が真面目なのね」


「と言うことは、急に休んだり、帰ったりとかしてないんですね」


「…ええ」


女の人が少し不審そうに眉を寄せたので、


「……兄は、昔から体が弱いところがあったので、よく病院に通ってたし、心配で……」


とあたしは俯いてみせた。


「あら…そうなの…大丈夫よ。元気そうにしてるし、毎日ちゃんと来てるわ」


とお姉さんはあたしに少し同情気味で答えてくれた。




―――そんなやり取りをしている最中、さっきのおじさんが戻ってきた。


すまなさそうな顔で頭の後ろを掻いて、


「いや…それがさ…人違いだろうって。自分には妹なんて居ませんって、会おうとしないんだ。


ごめんよ、お嬢ちゃん」


と小さく謝った。


「いえ。突然来てお兄ちゃんもびっくりしたんだと思います。今日すぐ会えるとは思ってなかったので。


また来ます」


これは計算内のことだ。最初から本人に会えるなんて思ってなかった。


だけど、知りたいことは全部聞いた。


あたしはぺこりと頭を下げて、小さくお礼をすると事務所を出た。