「すみません」
アルミさっしの簡単な扉を開けると、中に居た作業服に身を包んだ従業員らしきおじさんがちょっと振り返った。
「どうしたんだい?お嬢ちゃん。何か用かい?」
見るからに気のよさそうなおじさんが、にこにこ出迎えてくれた。
事務所らしき場所に、同じ作業服に身を包んだおじさんたちが数人、事務員と思われる若い女の人が一人不思議そうにあたしを注目する。
「あの、ここに右門 篤史って人居ませんか?」
あたしはなるべく神妙そうにおじさんの顔色を伺うと、おじさんはちょっと考えるように首を捻った。
「ミギカドねぇ。そんな洒落た名前のヤツはいないけど」
洒落てる…か、どうかは分からないけど、記憶に残るのは確かだ。従業員だったら知らないはずがない。
「もしかして偽名使ってるのかも…、あの…その人あたしのお兄ちゃんなんです。家出したきり戻ってこなくて…
この工場に入っていったって言う人が居たので…」
あたしは用意していた嘘を並べて、しおらしくちょっと俯くと、
「家出…ねぇ。そりゃ大変だな。こんな可愛い妹がありながら何で家出するかねぇ」
と、おじさんも俯く。
悪意のなさそうな女子高生が人探しをしていることにおじさんは深く突っ込みはせず、
あたしの演技にすっかり騙されたようで、顔に同情の色を浮かべていた。
いや、家出と可愛い妹は関係ないだろ。と心の中で突っ込むも、
あたしは制服のポケットからコピーした写真を取り出しておじさんに見せた。
その写真は明良兄が借りてきた卒業アルバムの写し。拡大コピーしたから画像は荒くなってるけど、それでも小さいままよりだいぶ見やすくなっている。
「この人です、あたしのお兄ちゃん。二年前の顔だから変わってるかもしれないけど…
何せ写真がこれしかなかったから。
知りませんか?」
おじさんは写真を覗き込むと、
「ああ、この顔……アツシのことか。藤岡 アツシ。たぶんあいつで間違いないよ」
おじさんはぽんと手を打った。
ビンゴ
あたしは口の端をちょっと上げて、ひっそりと笑みを浮かべた。



