「はぁ?アツシって言やぁ男の名前じゃん」


「あたしは“女の”とは言ってない。乃亜が“久米の彼女”って言葉を使ったから、あんたが勘違いしただけでしょ?」


あたしが梶の額を軽くはじくと、「…そっかぁ」と梶は納得顔。


その隣で、乃亜が目を開いて口元に手をやっている。




「そうか。あたしたち勘違いしてたんだ……」




「どうゆう意味だよ」と一人事情を呑み込めない梶が苛立ったように声を上げた。


あたしはにっこり笑顔で梶の肩に手を置くと、


「優ちゃん♪久米の親しい“あっちゃん”ってのは女じゃなく、男ってことよ?」


なんて言うと、


「優ちゃん……」と梶が頬を緩ませて、


「何かいい!!お前に初めて名前呼ばれたし!」と梶が顔を輝かせた。


「ついでに聞いていい?優ちゃんって呼ばれたことはある?」


「そりゃ小さい頃はダチとか兄貴から呼ばれたことはあるけど…」


「あたしも明良のことお兄ちゃんじゃなくて“あーくん”って呼んでた時期があったよ」


と、乃亜も思い出したように手を打った。


優ちゃん…それから、あーくん


「どっちにしろ親しい間柄じゃなければ呼ばないよね」


「でも“アツシ”ってどこから出てきたんだよ」と梶が不思議そうに眉を寄せる。





「右門 篤史]




あたしは呟いて、宙を見上げた。


あたしの目の裏に―――あの無愛想で暗そうではあったけど、人形みたいに整った顔が浮かび上がった。