雅は久米と喧嘩をしたと言った。


でも久米は―――喧嘩じゃなく、明らかに僕を挑発していた。



久米の狙いは―――楠じゃない。





僕をあの場所に呼び寄せることだ。




一体久米は何がしたい?


僕から雅を奪いたいのなら、わざわざ僕を怒らせる必要なんてない。


何せ彼は、女生徒を惹き付ける魅力を持ち合わせているから。


雅を好きなら、彼女の気を引けばいいだけの話だ。


彼はそれだけの頭脳を持ち合わせているはずだし、それに見合う行動力もある。


僕を挑発して仲を引き裂こうとするなら、もっとやり方がある筈だ。


あんな一方的で強引なやり方―――…どこか腑に落ちない。



これじゃまるで一年前の雅を見ているようだ。



一年前、僕は雅の本心がまるきり分からなかった。


何もかも気を許して、甘えてくるかと思えば、


急に突き放し、引いていく。


そうかと思ったら、またもとことんまで気を許す。




そんな不思議で、でもちっとも自分の手の中におさまらない彼女のことを……



僕はいつの間にか目で追っていた。