森本は―――月が自分を照らしてくると言ったが、月自体が光を放つことがない。
悲しい天体なのだ。
月は―――太陽の光に反射して、自らを輝かせる。
僕にとっての太陽は―――
鬼頭 雅
彼女の以前纏っていたタンドゥルプワゾンは、プワゾンの昼の顔。
まさに僕の太陽だった。
だけど、今度贈ったヒプノティックプワゾンは―――深い夜を表す香り。
まるで森のような都会のビルとビルの間。人工的な光の中で、ただ夜を包み込むような穏やかで繊細な香り。
そしてその中に漂う、誘われているような官能的でまろやかな微香。
夜が月を支配し、そして同時に包み込むような―――そんな香りだ。
月が輝くのは、そんな女神のような夜を美しく照らし出すため。
僕はほんの少しだけ微笑んで、森本を見た。
森本にも、そんな人が……心から彼女を照らしてくれるような人が現れればいいな。
「ごちそうさまでした。話聞いてくれてありがとうございます」
森本は丁寧に頭を下げ、立ち上がった。
「ああ、そうだ。一つ聞きたいんだが、森本は久米と仲がいいのかな?」
「久米くん―――?」
ほとんど入り口に脚を向けていた森本が不思議そうに振り返った。



