折りしも昼休憩時間だ―――まだ午後の授業がはじまるまで15分ほどある。


あの母親とうまく行っているのか、予備校の調子はどうだとか、色々気になることがあったし、二者面談のつもりで僕は森本を招き入れた。


「何か飲む?って言ってもコーヒーしかないけど。しかもインスタント」


と言って電気ポットに近づくと、森本は慌てて


「いえ!」


「あ、コーヒーだめだっけ…」


「……いえ、そうじゃありません…すみません。いただきます」


と、森本は恐縮したように身を縮こませた。


謙虚な子だな。


雅や楠だったら当たり前のようにご馳走になっていくってのに。


いや、彼女たちのあのストレートな喜び…あれはあれで、分かりやすくていいんだが。


「あの…さっきは……すみませんでした。生徒手帳拾ってくれたのに…。あたし変な態度で…」


「いや、気にしてないよ。見つかって良かったね」


当たり障りのない返事を返して、森本は一応はほっと安堵したものの、それでも心残りがあるような顔で視線をあやふやに彷徨わせていた。


こうやって見ると…本当に結ちゃんが言った森本像がすべてが虚像に見えてくる。


かと言って結ちゃんが嘘をついているわけでもなさそうだ。


しかし……森本は……誰かの彼氏を奪うような気が強そうな女の子にも見えないし、ましてや卑劣な手を使って男を手中に入れるタイプでもなさそう。




でも事実―――なんだよなぁ…