何だろう……


いぶかしく思ってそぉっと扉を開け、ちょっと顔を出すと扉の横で森本が壁に手をついて何かを眺めていた。


そっと触れる指先には、僕の名前が入ったネームプレートがある。




“数学準備室 教諭:神代 水月”




と書かれたプレートだ。


森本は僕の姿に気付かずに、“水月”と書かれた場所をそっと撫でていた。


その横顔がちょっと恥ずかしそうにピンク色に染まっていて、口元に淡い笑みを浮かべている。





どうしたんだろう…


「森本、どうした?」


僕が声を掛けると、森本はびっくりしたように目を開いて肩をびくりと震わせた。


「あ、あの!すみません!」


別に何も悪いことをしていないのに、森本は慌てて頭を下げ、行ってしまおうとする。


「待って!」


僕はその華奢な背中に向かって声を掛けていた。