もらったクッキーに毒が入ってるかどうか…なんて本気で考えているわけではない。


だけど僕はそのクッキーが入った包みを、手のひらで弄んでいた。


雅はごはんを作ってくれることは良くあるけど、お菓子はこれがはじめてだ。


前に一度シュークリームを作ってと頼んだことがあるが、


「買った方がおいしいし、手っ取り早いじゃん」なんて答えが返ってきたっけ。


恋人の手作りに、醍醐味があるのに。


なんてブツブツ言い返した覚えがある。


「なんか……食べちゃうのがもったいないな…」


なんて手のひらで眺めること数分。ここは例のごとく数学準備室で、僕意外誰も居ない。


雅……今日の髪型はめずらしくストレートだったな。


あの黒い艶やかな髪が肩が滑り落ちる瞬間、思わずあの毛先に触れたくなった。


白い耳が露になって、普段は付けていない対耳輪(耳の軟骨の一部です)にルークピアスがちらりと見えた。


小さな花のキラキラしたチャームがくっついているピアスだ。雅が動く度にそのチャームが小さく揺れていた。


見ているだけで痛そうな場所なのに、雅は平気で入れる。


まぁ似合ってるからいいんだけど。


最近ストレスを抱えているのかな……



以前、何故そんなにピアスホールが多いのか聞いたところ、ストレスが溜まると穴を開けるという答えが返ってきた。


でも最近では開ける場所もなくなってきたから、次はヘソピでもしようかなぁ、なんて冗談めかして言ってったっけ。


雅はピアスホールを空けることに慣れているし、躊躇いもないようだ。


だけど、それを本気で止めた僕。


だって衛生的に良くないだろう。雑菌とか入って感染症なんか起こしたら大変だ。


って…僕は過保護だろうか…




そう言えば結ちゃんも、いつも揺れる大きなピアスをしていたな……



なんて思い出して、僕はその考えを打ち消すようにクッキーの包みに慌てて視線を戻した。


もったいないけど、食べないと腐っちゃうしね…


なんて包みを開けようとしたときだった。


トン……


部屋の外で小さな音がした。