ちなみに雅とは喧嘩もしていないし、僕が他の女性に目移りしてるわけでもない。
「あのさぁ、先生ぼーっとしてるし、天然だからちょっと気をつけた方がいいと思うぜ」
梶田が乱暴に頭を掻きながら、ちょっとふてくされたように口を尖らせる。
「ありがとう。でも気を付けるって……み…鬼頭がどうかしたのか?」
“雅”と言いかけて、敢えて“鬼頭”と言いなおしたのは、単なる照れ隠しと、ここが学校だから、ということを考えてだった。
「……どうもしてねぇよ。たださ……あいつ…久米が鬼頭のこと狙ってるっぽい……から…気をつけた方がいいって…」
梶田は言いにくそうに頭を俯かせると、僕の足元で視線を這わせていた。
久米が―――……
それは分かっていたことだけど…
でも他人に指摘されると、その事実がよりリアルに感じる。
「…ありがとう。…気をつけるよ…」
梶田の言葉にあまり驚かなかった僕に、梶田は意外そうに眉を潜め顔を上げた。
「大人の余裕かもしんねぇけど、あいつ…久米はマジで良くわかんねぇヤツだからさ。
鬼頭が傷つくかもしれない。
俺は鬼頭が好きだし、あいつの支えになりたい、あいつを笑わせてやりたいと思うけどさ、
俺―――あんたにはどうあっても適わないんだ。
だからあいつを守ってやってくれよ」
梶田の黒い瞳は真剣で、水晶体の中にキラリと輝く光を―――僕は見た。



