僕の知らない森本を見ているようで、結ちゃんや、まこが警戒しているものが何の種類か、僕は気になった。
「……いや、見てないけど」
おずおずと言って生徒手帳を差し出すと、森本はひどく真剣な視線でまたも生徒手帳と僕の顔とを見比べた。
よっぽど他人に見られたくないものが書いてあるのか、その表情は少しだけ疑いのものを滲ませている。
「本当に、見てないよ」
僕はね。ちなみにまこは見たみたいだけど…
なんて、今の森本を前にして言えやしない。
「……あ、ありがとうございます…探してたんです」
森本が低く言って、僕の手から生徒手帳を抜き取る。
少しだけ乱暴な仕草にちょっと驚いたが、僕はそれ以上気にすることはなかった。
「せんせ~♪」
と僕の背後から女生徒が数人、僕にタックルしてくるような勢いで飛びついてきたからだ。
「どうした?」
「今日も帰り教室空けててくれる~??」
と甘えた声を出して、僕の腕に絡み付いてきたので僕の気が森本からそれた。
森本は小さく会釈だけすると、さっと踵を返して教室の外に出て行ってしまった。
「ねぇ先生~お願い~」と女生徒はなおも甘えるような仕草で上目遣いで聞いてくる。
雅とは違った今風の女子高生。化粧をして髪も明るく染め上げている。
彼女たちは僕に気があるわけではない。
いつもこんなような態度だし、僕は頼みごとをしやすい教師なのだろう。
「いいよ。文化祭の準備だろう?がんばって」
「やったー!」
案の定、彼女たちは喜びながら走り去っていった。
「相変わらずモテモテだな」
その声に振り返ると、一人の男子生徒が腕を組んで僕を見上げていた。



