キーンコーンカーン…


鐘がなり、


「今日はここまで」と言って教科書を閉じる。


生徒たちは、やっと開放されたという思いからか号令をかけるとすぐに思い思い行動をしはじめた。


雅は久米から机を離すと、教科書を机の中に仕舞い込んでいる。


久米も、それ以上は何もしなかった。


すぐに前の男子と喋りだして、まるで何事もなかったようだ。


それを確認すると教科書や参考書なんかをまとめて、僕も教室を出ようとした。


そして思い出した。


手には、教科書やら参考書なんかに混じって森本の生徒手帳があった。


森本は今、教室の後ろ部分にあるロッカーを開けて、真剣な顔で覗き込んでいる。


僕は彼女の元まで歩いていくと、


「森本」


僕が呼びかけると、森本はびっくりしたように目を開いてこちらに振り返った。


黒い髪がふわりと揺れて、髪の間に見えた横顔は―――その横顔はやっぱり姉である結ちゃんに似ていた。


「昨日、保健室に忘れていったみたいだね。君の生徒手帳」


僕が差し出すと、森本はまたもびっくりしように目をまばたきさせ、僕の手元にある生徒手帳と僕の顔とを交互に見比べる。


「探してた?ごめん、言うのが遅くなって…」


「中、見ました!?」


僕の言葉に被せるようにして、森本がちょっと大きな声で勢い込んだ。


その反応に今度は僕の方が驚いて、思わず一歩下がった。


ふいに結ちゃんの「あんまり信用しないほうがいいよ」と言う言葉を思い出し、慌てて頭を振った。