自分の中にこんなに激しい感情があったなんて驚きだ。
だけど―――
雅に前に来てもらい、問題を解いてもらっているとき…彼女と視線が合い―――
あの芳しいヒプノティックプワゾンを間近で感じると、
その熱い感情が、まるで津波の後のさざなみのように凪いでいく。
穏やかな風に吹かれた水面に、多少の波紋は残しつつも、あの高波のような激しい感情がゆっくりとおさまっていく。
彼女が席に戻っていく瞬間、彼女の指の先に触れた。
普段冷たい彼女の指先は、めずらしくあったかくて、
水面につくった波紋も、徐々に消えうせていく。
やり場のない怒りが暴れるのをどうにかやり過ごしたようで、ほっと前を向くと、
机の上に頬杖をついてこちらを眺める久米の視線とぶつかった。
まるで射るように見つめるその瞳に―――
険悪な何かが光っている。
僕も無言でその視線を、はねつけた。
“彼女に触れるな。”
そっちこそ
“雅を渡さない。”
奪ってみせる
僕たちは無言で視線を行き交わせ、視線だけでそんな会話をしているように思えた。



