あたしは、黒板に長ったらしい公式をチョークで書いている途中、ちょっとだけ水月の方を伺った。


心配そうに眉を寄せると、水月はさっきの冷たい視線とは変わって


いつもの穏やかな微笑みであたしに笑いかけてきた。


あたしだけが知る優しい笑顔―――


まるでイエスキリストのような、情愛と慈悲に満ちた深い笑顔。





水月―――…ごめん……ごめんなさい……





すべてを解き終えて、水月が合格を出すとあたしは席に戻ることにした。


すれ違う瞬間、彼のあったかい指先があたしの指先をかすめ―――


ほんの一瞬だったけど、そこからすべてがあらわれていく気がした。





たった一瞬の―――それもかすれるような感触だったけれど、





何だか思い切り泣き出したい気持ちになった。