水月―――
あたしが久米に手を握られてるっていつ気付いた?
たぶん振り向くまでは気づいてなかったよね。
乃亜が久米の頭にノートをぶつけて、あたしが久米の手から逃れた、その瞬間しか考えられない。
水月は乃亜には怒っていないようだった。
梶は完全なるとばっちりだ。
ごめん、梶。
―――それ以来水月は黒板の方をあまり向かなかった。
絶えず教科書を手にしてうろうろと教室を歩き回る。
あたしの方を気にしながら、それでも露骨に見てくることはなかったけれど。
お陰で久米が何かしてくることはなかった。
だけど―――
視線が―――痛い。
隣からは久米が意味深な温度を含ませた笑みであたしを見てきて、
代わりに水月の視線は、まるで水のように冷え切っていた。
居心地が悪くてちょっと俯くと、
「問い2~5を……そうだな、鬼頭。前に出て解いて」
と言われてあたしは救われたように顔を上げた。



