几帳面な水月が珍しいな…
なんて黒板を見つめていたけれど、その後は相変わらずきれいな手でスラスラと公式が黒板に書かれていく。
「ね、鬼頭さん。昨日のこと考えてくれた?」
水月が公式を説明している最中に、久米がそっと囁くように聞いてくる。
あたしは久米の方を見ずに、わずかに目を伏せた。
「あんた十日くれるって言ったよね。忘れたの?」
「忘れてないよ。ただ君はぐだぐだ悩むより早く行動を起こしてきそうだったから」
久米がちょっと楽しむかのように頬杖をついて、教壇に立っている水月の背中を眺める。
「悩みはしない。ただ考えるだけ。でもあんたさ、彼女居るんでしょ」
そう、久米の言う通り今はぐだぐだ考えてられない。
乃亜もあたしの味方だって知ってるだろうから、彼女に探りを入れてもらうこともできないだろう。
直球で聞いた方が早い。
久米がどうゆう反応をするのか…
あたしはちらりと横を見た。
「彼女?いないけど」
と久米がちょっと意外そうに目をまばたいた。
「………」
あたしはその様子を目を細めて見てみたけれど、久米の表情から何も読み取れなかった。
「“あっちゃん”って言う女がいるって聞いたよ。クラスの子から」
久米はまたもびっくりしたように目を丸めて、それでもその表情は嘘をついているようには見えなかった。
「あっちゃん―――…?ああ、違うよ。彼女じゃない」



