はぁ!?勝手に決めないでよ!
久米の視線に乃亜がたじろいだように、差し出した手を引っ込める。
梶が明らかに険を含んだ視線でちらりと久米を睨み、それでも久米は全くひるまない。
「前回説明した軌跡の方程式について…」
水月はそんなやりとりをしていることに気付かず、マイペースに教科書をめくっていた。
あたしはため息を吐いて、教科書を見せるために机を寄せた。
久米が机を引っ付けてきてその中央にあたしは教科書を乗せる。
いつもは通路分の距離があるけれど、今はゼロ。
久米の肩や肘がすぐ傍にあって、何か落ちつかない。
「久米、教科書忘れたのか?」
教科書をめくっていた水月が、あたしたちの様子に気付いてちょっとだけ眉をしかめる。
「はい。でも見せてもらうので大丈夫です」
久米は水月にもにこにこ笑顔で答えて、水月もそれ以上は言えないのか
「気をつけるように」と少しだけ低い声で頷き、黒板に向かった。
「『軌跡の方程式』とは、『動点の X 座標と y が満たす関係式』のことと考えればいいわけで、これを求めるためには、必ず x 座標と y 座標がいると言うことは前回説明したと思うけれど」
水月は説明をしながら、黒板に縦と横に線を描いていく。
その線が少しだけ―――歪んでいた。



