あたしはケータイを閉じて、梶に向き直った。
「ねぇ、久米に彼女が居るって話知ってる?」
梶は目をまばたいて、慌てて首を横に振った。
「知らねぇよ。あいつ彼女居たの?いないって言ってたのに…。でもそれが嘘だったら彼女居るのに、鬼頭に言い寄ってんの?」
酷く苛立ちを滲ませたように梶が眉を吊り上げる。
「彼女かどうか知らないけど、そうゆう噂があるって」
梶の反応を見る限り、梶も知らないようだ。
やっぱこうゆうのって女子の方が敏感だし、ついでに言うと梶はあんまり勘が鋭いほうではない。
「あくまで噂だろ?仲がいい女を彼女と間違えたんじゃね?」
と、明良兄は噂を本気にしていないみたいな口ぶりだ。
まぁ明良兄は久米に会ったことないし、知らないから分かんなくて当然だけど。
あたしもあいつに彼女が居るっていう説にどうも納得ができないんだよね。
そりゃいかにもモテそうだけど。
あいつは何て言うか、みんなのアイドルだから、そうゆう現実めいた話が信じられないって感じ。
でも―――そうだね…
もし、あいつにそういう女が居るのならば―――
それはあいつにとってのアキレス。
そこから攻めるのも手かもしれないね。
まだ、突破口がないわけじゃない。
無かったら作ればいいだけだし。
あたしはケータイを手にして意味深に笑うと、梶と明良兄が怪訝そうに顔を見合わせていた。



