僕が振り返ると遠くの方で、木々の間からゆったりとした黒い衣装に身を包んだ誰かがちらりと見えた。
大きめの黒いフードは顔に影を作り、ここからじゃ誰なのか……男なのか、女なのかさえも分からない。
その人物は森の闇と同化するような黒い衣装から腕を出すと、
手のひらに乗せたりんごを木々の間から差し出してきた。
そのりんごの色が―――空の色に反射して、妖しくも美しい―――
真っ赤な色をしていた。
―――……
「―――夢…?」
ぼんやりと目をまばたくと、それが夢なのか現実なのか、あるいは二つの世界が混在したような暗闇が目の裏で渦を巻いていた。
もう一度ゆっくりとまばたき、やがて目が暗闇に慣れると、そこが僕の部屋であることに気付いた。
変な夢だ……
このところずっとそうだ。ストーリーや背景に特に統一性はないけれど、どの夢にも決まって雅が登場してくる。
幼い頃の彼女だったり、あるときは学校の制服を着て、あるときは―――ドレスを着た姫だったり………
これは、何かを僕に伝えようとしているのか。
「考えすぎだ」
僕はごろりと寝返りを打つと、僕のおなかの上で丸まっていたゆずが飛び起きた。
考え過ぎだ―――
そうあって欲しい―――
そう願って、僕は再び目を閉じたが―――あの森のように深い―――眠りはやってこなかった。