久米のことがはじめて怖いと思ったけど、だけどあたしは―――
それ以上にこいつがどうゆうヤツなのか、知りたくなった。
あたしは逃げなかった。
久米が楽しそうに笑い近づいてきて、逃げようとしないあたしを梶が急かすように
「鬼頭!行け!!」と怒鳴った。
「梶田、邪魔だ。どいてくれ」
久米の姿がすぐ近くに迫ってきて、あたしは梶の肩越しから久米の顔を見上げた。
「梶、大丈夫だよ。ここじゃ騒ぎになるし、久米も下手に身動きできないはず」
あたしは説明したけど、梶は頑なにあたしの言うことを聞き入れなかった。
「誰が退くか!お前、鬼頭に何しようとしてるんだ!」
「梶!」
久米の言う通りにしないと、あんたが傷つけられるかもしれないんだよ!
久米は梶の顔を覗き込むように見ると視線を険しくさせ、
「退いて」と短く言った。
決して大きな声じゃない。怒鳴ってるわけでもないし、叫んでるわけでもないのに―――
その声は背骨にじんと痺れを感じる深い声だった。
梶は一瞬だけ大きく息を吸い込み、次の瞬間、まるで魂を抜かれたように腕をだらりと降ろし、諦めたようにわずかに横にずれる。
「話の続きだったよね」
久米は出し抜けに、いつもの調子でにっこり笑ってあたしを覗き込み、そっとあたしの頬を撫で上げてきた。
ぞくり、と嫌な汗が背中を伝い、それでも……
怯んだら負けだ。
あたしは久米を睨み上げた。



