引越し?誰が―――?
これからって何が―――……
二人が会話をしていると、途中で機械音が止み、
「これからが勝負だ。あいつには好き勝手させない」
久米の表情が一段と険しくなり、低い声が―――今度は、はっきりと耳に届いた。
あいつ―――……?
「勝負…?勝負って何のだよ…」
久米の声は梶にも聞こえていたらしく、梶が眉間に皺を寄せる。
あたしは目を細めてその様子を伺っていると、ふわりと風が吹き、
久米が目を開いて、急にこちらを振り返った。
びっくりして慌てて顔を引っ込める。
「毒…………」
久米がはっきりと分かる声で呟いて、あたしは目を開いた。
「毒?」
音が止んだ倉庫の中で、久米じゃない誰かの声が聞こえた。
たった一言呟いたその声に―――聞き覚えがなかった。
だけど若い…あたしたちとそう変わらない男の声―――…
その男に久米は、低く愉しむかのように笑った。
あたしは―――こんな久米を
知らない。
「プアゾンの香りだ。
中に入っててくれないか?
どうやら招かれざる客のお出ましだ」



