久米は特に迷いのない足取りで道を歩いていく。
でもあたしの家の方向ではなかった。
「どこ行くんだろ」
電信柱に身を隠しながら、久米の後ろ姿を二人して監視する。
傍から見たら―――久米をストーカーしてる不審者って感じ……
でも久米の後を尾けて分かった。人を尾行するのって案外ムズカシイ。ストーカーの野郎にちょっと感心すら覚えるよ。
そうして歩くこと10分。
久米はある古い工場の倉庫のような場所に入っていった。
あたしたちはすぐ傍の電信柱に隠れるようにして身を寄せ合い、久米の姿をじっと目で追った。
倉庫の隣には事務所のような白い建物が建っていて、“長谷川製鉄所”と古ぼけた看板が掲げられていた。
中から機械の音が聞こえて、小さく金属音が鳴っている。
白い建物にも明かりが灯っているし、倉庫の中からは機械の音。
どうやらこの製鉄所は運営しているようだ。
久米は大きな扉の前に立って、中に居る人物となにやら話している。
その話している相手の姿は倉庫の扉に隠れて見えない。地面に目を向けると、コンクリートの床に黒い影が伸びていた。
その影は腕の形を落としていて、手振りで話しているのだろう、ふらふらと動いている。
久米の端正な横顔が見えて―――だけどその表情は楽しそうではなかった。
怒ってはいなさそうだったけれど、どこか緊迫したものを感じる。
「な…何話してるんだろ…」
梶が僅かに身を乗り出して、あたしがそれを制した。
「し!黙って。これ以上近づいたらバレるよ」
あたしの声に梶がちょっとだけしょんぼりと項垂れ、頭を下げる。
耳をそばだてていると―――
「―――…引越し―――…ああ、その場所なら知ってる―――……これからだ」
久米の緊張を帯びた声が、所々聞こえてきた。



