久米は慌てた様子で教室を出て行った。
よっぽどの用があるのかしら。
その様子を水月が何となく疑いのまなざしで見送り、あたしはそのことにもちょっと疑問に思った。
水月は―――どうして久米をそんなに気にするのだろう。
だけど今はそんなこと悠長に考えてられない。
これはチャンスだ。
あたしも鞄を手に取ると、
「梶、行くよ」と短く合図をした。
「え、行くってどこへ?」
「決まってンでしょ?久米の後を尾けてくの」
梶の返事を待たずしてあたしも教室から出ると、その後を慌てて梶が追いかけてきた。
――――
――
久米は駅から電車に乗り、あたしんちの方向行きの電車に乗った。
あたしたちも一つだけ後ろの車両に慌てて飛び乗ると、隣の車両でドアにもたれ掛かっている久米をじっと観察した。
「どこへ向かってるんだろ…」
梶が久米の方を見てぽつりと漏らす。
「梶、見過ぎ。見つかったらまずいよ」梶の腕をぐいと引っ張って戻すと、梶は顔を赤くしてちょっとだけ俯いた。
「何かさ……あんまり二人きりで帰ることってないジャン?」
「だから?」
「だから……嬉しいって言うか、緊張するって言うか…」
「勘違いしないで。これはデートでも何でもないの。あ、ほら。久米降りるよ」
まだもじもじしている梶の腕を再び引っ張って、駅に到着した列車から降りる久米の後をあたしは追った。
予想通り―――
それはあたしがいつも降りる駅だった。



