その男子生徒は、この前あたしに言いがかりをつけてきたA組の実行委員だった。その背後に隠れるように身を縮めている根岸も居る。
A組の男子はにやにや笑いながらあたしの方を見て、それでも何も言わずにあたしたちの横をすっと通り抜けた。
根岸も慌ててその後をついていく。
水月も根岸のことが気になるのか、あいつの細い後ろ姿をじっと見つめていた。
それでも慌てて顔を戻すと、
「ごめん、何か言いかけたよね。何だった?」
といつもの調子に戻ってあたしに笑いかけてくる。
あたしはその笑顔に、同じものを返さず無表情にじっと見上げて、
「何でもないです。あたし今日も梶と帰るから」
そっけなく言い、踵を返した。
本当はこんなことを言いたかったわけじゃない。
本当はこんな可愛げない態度取りたかったわけじゃない。
でも学校にいる限り―――この制服を着ている限り―――
あたしと水月は
生徒と教師―――
あたしはお人よし過ぎるぐらい、自分の生徒を想って一生懸命な水月が好き。
何とかしてあげたい、って想いながら見つめるあの色素の薄い目が好き。
がんばりすぎて、たまに空回りするあの行動が好き。
大好きだよ。
だけど―――あたしが歩いて彼から離れる分だけ、距離ができ、
会話さえもすれ違いを生む。
それは近いのに、遠い―――存在。



