台本合わせはこの場所まで。


たった数分の演技だって言うのに、どっと疲れが来てあたしは大きく肩を撫で下ろした。


だけどその場に居る誰もがあたしをじっと凝視し、身動きせずにまるで時間が止まったように静止していた。


何…?あたしの演技変だった?



パチパチ…


遠くで控えめな拍手をしながら、水月が笑顔でこっちに向かってきた。


しんと静まり返った教室に、拍手だけがやけに大きく聞こえて、その音でみんなが弾かれたようにびくりと身動きした。


「いいじゃないか。面白いよ」


水月が笑顔を浮かべ、机に置きっぱなしになっていた台本をぱらぱらとめくった。


「鬼頭さんて意外に演技力あるんだね。これならイケそうじゃない?」


と久米はすっかり元通りで、にこにこ笑う。


「マジでそうだよなぁ。最初はどうなるかと思ったけど。俺ちょっとびっくりした」と梶も感心したように笑い、


「鬼頭さん女優に向いてるんじゃない?」


なんて、その他男子たちも同じようにおもしろそうにしていた。


あたしがほっとしたように肩を撫で下ろすと、


「ちょ!ちょっと!これっキスシーンあるじゃん」


と水月が声を荒げた。


「先生~、そりゃ白雪姫って言えば王子さまのチューで目覚めるって王道じゃん♪」


と男子の一人が笑いながら水月を小突く。


「えっ?だって白雪姫ってりんごの欠片を喉につまらせて眠りに入るんじゃないの??」


水月がびっくりしたように目をまばたき、あたしが目を開いて水月を見た。


「それはグリム童話。ディズニー版見てないのかよ。って言うかどうしたらディズニー版を避けてそこまで生きれんだよ」


と梶が水月を睨む。


相変わらず天然だぜ。なんて言って、それでも水月の天然っぷりに梶は笑っていた。


それにはあたしも激しく同感だよ。