―――…と言う訳で、台本合わせが始まった。


いつの間にかクラスの男子たちが何事かこっちを注目し始める。


ギャラリーが居るから多少恥ずかしいけど、でも当日はこれの何倍もの客が居る―――筈……


こんなところで怖気づいちゃだめ。


あたしは屈みこみ、花を摘み取るフリをした。




『きれいな花。これは何て言う花かしら。私にぴったりね』



あたしは手にあるだろう花を、目を細めて見下ろし微笑を浮かべた。



―――ってか白雪姫、どんだけナルシストよ。


ま、おもしろいからいいか。


『白雪姫…許してくれ。私にはこうするしかできないんだ』


猟師の台詞を読み上げて久米が背後でナイフに見立てたペンケースを振り上げる気配があった。


たった一言だったけれど、声に張りがあり良く透る。それだけでなく、感情に迫力も感じた。


後ろに立たれてるだけで、ぞくりと嫌な鳥肌が浮かぶ。


久米―――……結構うまい…


ペンケースを振り下ろす瞬間、あたしは猟師…もとい久米の方を思い切り振り返った。


久米がびっくりしてその手を止める。


台本でも同じ。猟師は急に振り返った白雪姫に驚いてその手を止める。


だけど久米は本気で驚いたように目を開いて、身を固まらせていた。





『私を……殺す気?』





あたしが低く問い、久米がはっとしたように次の台詞を口の中で唱える。


『女王さまの命令です。あの国で女王さまに歯向かっては誰も生きていけません』


久米が―――…いや、猟師が悲痛な面持ちであたし…もとい白雪姫に訴えかける。


白雪姫は―――泣いて懇願する―――…



どころか、失笑を漏らす。





『生きていけないですって。顔も性格も捻じ曲がったあの女の何が怖いの?』