「それはディズニー版でしょ?
グリム童話では、白雪姫がりんごの毒にやられたんじゃなくて、単にりんごのかけらを喉につまらせて窒息状態だっただけ。
王子さまはそれを知らずに棺おけごと白雪姫を連れて帰る途中、馬から落馬して棺おけが転がるの。
切り株か何かにぶつかった拍子に、白雪姫の喉からりんごのかけらが取れて、息を吹き返すんだよ」
あたしが冷たく言って、久米に台本を突き返すと、
「そうなの?知らなかった」と久米は目をぱちぱち。
「ついでに教えてあげる。グリム版では王子さまは死体愛好家の変態野郎。白雪姫を気に入ったのも、美しい“死体”だったから。
それぐらいも知らなかったの?演劇部員のくせに」
「生憎だけど白雪姫は一度も演じたことがないんだ」と久米は肩をすくめ、
「死体愛好家…へ、へぇ。それは知らなかった…」と梶は素直に驚いている。
「でも、それじゃ全然ロマンチックじゃないじゃん」久米が唇を尖らせる。
「猟師を誘惑して、その後魔女と対決する白雪姫も全然ロマンチックじゃないっつの」
思わず突っ込むと、
「キスシーンはあくまで“ふり”だよ。それにグリム童話よりもディズニー版の方がみんな知ってるし親しみがあるんじゃない?」
なんて久米はあたしの反論にもちっとも怯む様子がない。
ちなみに王子さまが登場するのは白雪姫を救い、その後結婚するときだけ。
久米め。楽しやがって。
だけど白雪姫はその美貌で王子さまをたぶらかし、結婚して財産を手にするという性悪オンナだ。
ストーリーはおもしろいけど…でもキスシーンなんて、フリだけでも絶対イヤ!!
あたしの唇は愛しい水月だけのものだもん!
あたしがそんな思いで久米を睨むと、久米はため息を吐いて腕を組んだ。
「A組に負けてもいいの?」



