■Forest.7
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その日の午後、ホームルームが終わっても教室内はざわついていた。
A組との文化祭対決に火がついたのか、みんないきり立っている。
「なぁ、女子たちの姿が見えないんだけど」
と梶がキョロキョロ視線を彷徨わせて、不思議そうにあたしに聞いてきた。
「調理実習室だよ。りんごケーキとかアップルパイの試作を作ってるってさ」
あたしが気のない返事で答えると、梶が納得したように頷いた。
「お前は行かないの?」
「あたしがお菓子とか作ると思う?めんどくさいよ」
「そうだよな~。乃亜ちゃんも?実習室でケーキ作ってるのかな?」
「乃亜は―――…」
今日、明良兄と一緒に明良兄の先輩に会いに行って、その後あたしの出身中学に行く予定だ。
「全部USBに書いてある」
今は乃亜の手に渡っているはずだから、梶に回るのは2日後だ。
でもUSBと言って梶はそれだけで分かってくれた。
「了解」
腕を組むと難しそうな顔で頷く。そして何気ない仕草で久米の方に視線を移した。
久米は今、クラスの男子の一人と話していて、あたしたちの視線に気づくと爽やかな笑顔を浮かべてこっちに来た。
お呼びでない。なんて思ったけど、あたしは無言で久米を見上げた。
「ちょうど良かった。台本が出来上がったんだ」
久米はにっこり笑って、ホチキスで止めたプリントの束をあたしに渡してきた。