あたしが保健医の背後からパソコンを覗き込むと、
「ウイルスに感染してんじゃん。あんた医者なのにそんなこと分かんないの」と言ってやった。
保健医は顔だけを振り向かせて、恨みがましくあたしを見上げると、
「俺の相手は人間なの。機械相手はさすがの俺様でも無理」
と眉間に皺を寄せた。
あたしは肩を軽くすくめると、保健医の背後からマウスを奪った。
「セキュリティの更新期限が過ぎてるよ。もう少し強化したほうがいいんじゃない」
ほらっ、と言ってあたしは、対ウィルスシステムを勝手に更新してやった。
「相変わらず嫌味な女子高生だな」
保健医は苦々しそうに顔を歪めている。
あたしは軽く肩をすくめて、「あんたの最高の賛辞だと受け取っておくわ」と言ってやった。
保健医は皮肉そうにちょっと笑っただけで、
「あいつならまだ来ねぇぞ」とそっけなく言い、腕を組んだ。
「何か知ってるの?」と乃亜が可愛らしく言って保健医を覗き込む。
「何か、職員室で生徒に捕まってたぞ?そいやぁお前みたいな格好してたな」
保健医があたしを見る。
『あたしに似たような雰囲気』とは敢えて言わないことから、こいつも乃亜と同じ考えなんだと思った。
「森本さんだ…。雅、大丈夫なの?」
乃亜が不安そうに聞いてくる。
「別にいいよ。あたしのオトコに話しかけるな、なんて言えないでしょ?誰が誰と話そうが勝手だし」
そっけなく言って、あたしは保健室のベッドに腰掛けた。
あたしが怖いのは―――あたしを真似ようとしてる(?)森本さんじゃない。
目の前に居るこの嫌みったらしいほど整った顔の
この保健医だけだ。



